ほんとだもん! ほんとにトートロジーだもん! うそじゃないもん! | 山本清風のリハビログ

 言語中枢を破壊したなんていうが、こう誰もいないことには私が発しているのが「うえおおおい」なのか「帝都高速度交通営団」であるのかジャッジがつかぬ。それというのも、他方には「うえおおおい」という発語で「帝都高速度交通営団」の意味を成す言語があるかも知れず、私は言語にあまり明るくないので知らないが、勝手に決めてくれという思いばかりが先にある。後にも先にもありあまるほどにあるのである。
 あんまり無い。無いものは無い。無い袖は振れぬ。なんて言葉があるけれども、さればこそええじゃないか、無い袖を振ってみせようじゃないか、不毛に毛を生やしてご覧ぜようじゃねえかなどとねじれ切っている私は、冬というに長袖も新調せずにいるのである。
 従って、袖振り合うのだといわれている他生の縁が私にはひとの半分しかない。あ、生命線が切れている。袖がそんなに大事ですか。おまえが袖ケ浦というならわかるけれども、袖ケ浦でもないくせに袖にそこまで固執するというのは全体どういうわけだ、おまえの人生は、袖に拘泥することによって著しく損なわれているんだよ。
「こんな………こんなものがあるからいけないんだっ、うおおおおおおお………!」
 闇の右手に咆哮すると私は自由を奪取するべく駆け出した。
 ―――スリーブを、ひきちぎる。

 

 最早私に他生の縁などはなく、もとより袖などない、知人などもなくサッカーボールだけが友達なのだ。それにつけても私たちゃなんなの? 袖ひとつにきりきり舞いだわ。袖も内臓も作家性も擦過させずただひたすらに自由だけを求めて、ダッシュ。奪い取れ。おもちゃじゃねえ、ミニ四駆だ、バーニングサンだ、ホライゾンだ、テキーラサンライズだ、ヴァージンスーサイズだ、スイサイダルテンデンシーズだ紅だ。
 紅なんだよ。袖をかなぐり捨てても処女は捨てなかった私の眼前におまえが現れて、小首をくりり傾げながら、問うてくる。
「〝こんなものがあるからいけないんだっ、帝都高速度交通営団………!〟ってどういう意味なんだ?」
 なんぞメトロに怨みでもあるのかおまえ? とおまえ。

 

 残念だな。おまえにはもう視えんよ、―――トトロは。